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日本遺産に指定された塩田平 ~JUN,2024


別稿で書きました当地の国宝の二塔(安楽寺八角三重塔と大宝寺三重塔)を訪れたのは9年前になります。その間この辺りの神社仏閣旧跡は日本遺産に指定され、確実に観光地化が進められているようです。上田市には信濃国分寺とその跡地が在り、主要官道である東山道が敷かれ、科野国造の本拠があった事から古代では信濃国の中心地であった事は間違いないでしょう。



国府は推定地はあるものの、未だ場所は特定できません。平将門の乱が起こった10世紀中には国府は機能を失い、松本市のある筑摩郡に動いたものと推定されているようですが、ここでも未だ場所の特定は難しいようです。現在の信濃国分寺は跡地から300mほど北にあり、源頼朝が善光寺詣りの帰りに立ち寄り寂れていた寺の復興を命じたと伝わってますが、塩田平の歴代の統治者は仏教に篤信したお陰で美しい寺院が今でも静かに林立しています。


因みに信濃国分寺に入るとすぐ、徳川・真田会見の地という碑が建ってます。関ケ原の戦いでは、徳川秀忠が東軍別動隊を率いて上田城に籠る真田昌幸を攻めましたが、秀忠は降伏勧告の使者(本多忠政、真田信幸)を当寺に滞在させたところ、のらりくらりとした交渉を強いられました。昌幸は時間を稼ぎながら籠城戦の準備を整え、秀忠の大軍を遅参させたのは史実の通りです。




信濃国府の機能低下は荘園の展開が早かったのも一因ではないかと想像しますが、塩田平は平家政権全盛を迎えようとする時期に、建春門院(平時信娘、高倉天皇の母)に寄進され国衙領が荘園となりました(建春門院が発願した最勝光院領塩田荘)。当地域は千曲川が作った河岸段丘を中心に豊かな穀倉地帯でしたが、木曽義仲の挙兵に伴う戦乱の後、鎌倉期に塩田流北条氏が入り禅宗や鎌倉仏教を保護しました。室町期では足利尊氏についた河内源氏由来の村上氏が統治し、戦国期に入ると武田が侵攻し真田の支配下となり江戸時代を迎える事になります。日本史の縮図の様な地域ですが、特に中世史ファンには古い寺社建造物が多く残っているので目の肥やしになります。

今回私は新緑の軽井沢を拠点に佐久平、塩田平を回遊しました。お城廻りも神社仏閣廻りも見所が多い地域なのでゆっくり滞在したい場所ですが、お勧めは別所温泉です。上田市中心から車で20-30分程の簡便なアクセスですが、ここは歴史的な秘湯であり言い伝えでは日本武尊の東征で発見された温泉とのことですが、少なくとも平安期には枕草子で『湯は有馬、玉造、七久里(別所温泉の別名)』と書いてあるくらい有名だったようです。


温泉地に入り先ず重文石造多宝塔のある常楽寺を訪れました。鎌倉末期の石造多宝塔は貴重で、近所の安楽寺の国宝八角塔と共に塔マニアの方には必見です。








今は常楽寺の伽藍の一つですが、北向観音という寺院が別所温泉源泉の近くにあります。空海の後継者だった円仁(慈覚大師)が開祖ですが、彼は関東で200カ所、東北で300カ所余りの寺院を開いたとされてます。円仁は下野(栃木県)の出身で、実家に帰る主要幹線道路(東山道)沿いの温泉地でお寺を開いた説は十分説得力があります(笑)。




ここには愛染かつらの木が有ります。戦前から戦後にかけて多数の映画・ドラマが作られた川口松太郎の恋愛小説は、この木がヒントになったとのこと。








別所温泉の入り口には小さな円墳があり、将軍塚と呼ばれ十世紀の後半鎮守府将軍として東北で活躍した平惟茂の墓とされています。平安期は未だ東海道が不便で相模から海路上総に渡る状況下、関東・東北へ抜ける本街道は東山道であり、木曽義仲も源頼朝も円仁も往来しました。そして鎌倉北条氏の有力一族(北条義政)が配置された重要戦略地点でした。




今回はその他別所温泉近くにある前山寺(重文五重塔)、中禅寺(薬師堂)も廻り、日本遺産寺院群を堪能しました。










〆はやはり古墳でしょうか。四世紀の古墳は必ず見逃さない様にしてますが、大和朝廷の影響を受けた証明となる前方後円墳は森将軍塚古墳と呼ばれ、千曲川がもうすぐ梓川と合流する平野部を見下ろす山上に有ります。塩田平と遠く善光寺平を臨む見晴らしの良い場所に百メートル級の古墳を造ったのは、大和朝廷の傘下に入ったばかりの科野の王だったのでしょう。




麓には長野県立歴史館が有ります。私がこれまで見てきたものの中では一番立派な展示内容で、流石教育県だなと感心しました。ただ実際にそれだけの立派な設備を置く価値がある県の歴史だなとも思います。長野県を知りたい方は是非最初に訪れてください。

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